【運動論】運動論方程式から流体方程式へ I【流体力学】
【運動論】運動論方程式から流体方程式へ I【流体力学】
■はじめに
粒子集団の運動を、分布関数$f$の時間発展として扱う運動論方程式 \begin{align} \label{eq:kinetic_eq} \frac{\pd f}{\pd t} +\bm{v} \cdot \frac{\pd f}{\pd \bm{x}} +\dot{\bm{v}}\cdot \frac{\pd f}{\pd \bm{v}} =C(f) \end{align} の速度モーメントを取ることで、マクロな観点から見た系の時間発展を支配する基礎方程式を導く。
運動論方程式は、成分表示すれば \begin{align} \frac{\pd f}{\pd t} +v_i \frac{\pd f}{\pd x_i} +\dot{v}_i \frac{\pd f}{\pd v_i} =C(f) \end{align} であり、以下を含め、Einsteinの規約(繰り返しの添え字は和を取る)に従うこととする。
量を調節するため、記事をいくつかに分割する。この記事では、基本的な枠組みの提示と、具体例の一つである連続の式の導出までを扱う。
運動論の基礎は『運動論の基本事項』を参照。
■一般のモーメント方程式
運動論方程式(\ref{eq:kinetic_eq})に、関数$g(\bm{x},\bm{v},t)$をかけ、速度空間全体にわたって積分すると、左辺一項目は \begin{align} \notag \int g\frac{\pd f}{\pd t}d^3v =& \frac{\pd}{\pd t} \int gfd^3v - \int f\frac{\pd g}{\pd t}d^3v \\ =& \frac{\pd n\langle g \rangle}{\pd t} - n \left\langle \frac{\pd g}{\pd t}\right\rangle \end{align} とできる。 ここで、任意の相空間関数$A(\bm{x},\bm{v},t)$の速度平均を \begin{align} \langle A \rangle(\bm{x},t) \equiv \frac{1}{n(\bm{x})} \int A(\bm{x},\bm{v},t)f(\bm{x},\bm{v},t) d^3v \end{align} と定義した。また、 \begin{align} n(\bm{x},t)=\int f(\bm{x},\bm{v},t) d^3v \end{align} は粒子の空間密度である。
二項目、三項目も同様に変形することで、モーメント方程式 \begin{align} \label {eq:moment} \frac{\pd n\langle g \rangle}{\pd t} - n \left\langle \frac{\pd g}{\pd t}\right\rangle + \frac{\pd n\langle v_i g \rangle}{\pd x_i} - n \left\langle \frac{\pd v_i g}{\pd x_i}\right\rangle + \frac{\pd n\langle \dot{v}_i g \rangle}{\pd v_i} - n \left\langle \frac{\pd \dot{v}_i g}{\pd v_i}\right\rangle = \int gC d^3v \end{align} を得る。
■0次のモーメント:密度保存則
(\ref{eq:moment})で$g=1$とすると \begin{align} \label {eq:moment0} \frac{\pd n}{\pd t} + \frac{\pd n\langle v_i \rangle}{\pd x_i} - n \left\langle \frac{\pd v_i }{\pd x_i}\right\rangle + \frac{\pd n\langle \dot{v}_i \rangle}{\pd v_i} - n \left\langle \frac{\pd \dot{v}_i }{\pd v_i}\right\rangle = \int C d^3v \end{align} であり、左辺三項目は位置と速度の独立性から、四項目は、$n$も$\langle \dot{v}_i \rangle$も速度に依存しない量であることから落ちる。 加速度が速度に依存しない場合か、あるいはLorentz力のように$\pd \dot{v}_i/\pd v_i=0$であれば、左辺の最後の項も落ちる。 右辺は、衝突による粒子数保存則より$0$である(『運動論の基本事項』を参照)。 よってこの場合の(\ref{eq:moment})は、密度の保存則に対応する連続の式 \begin{align} \label {eq:continuity} \frac{\pd n}{\pd t}+\nabla \cdot (n\bm{V}) \end{align} を与える。 ここで$\nabla=\pd/\pd\bm{x}$であり \begin{align} \label {eq:fluidV} \bm{V}(\bm{x},t)\equiv \frac{1}{n}\int f(\bm{x},\bm{v})\bm{v} d^3v \end{align} は流体速度である(粒子速度$\bm{v}$と異なり、位置の依存性を持つことに注意)。
参考文献
- Jeans, J., (1940). An introduction to the kinetic theory of gases. CUP Archive.
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