【熱力学】平衡状態

【熱力学】平衡状態

物理・数学ノート > 熱・統計力学

■はじめに

ここでは、熱力学における平衡状態と、その条件について説明する。

■平衡状態とその条件

エネルギーと体積および粒子数が、それぞれ$(U_1,V_1,N_1)$、$(U_2,V_2,N_2)$である互いに同種粒子から成る二つの系を考える。これら二つを接触させ、全体をエネルギーも物質も通さない壁で囲み、全体として孤立した系と扱えるようにする。

すると、しばらく放置すれば、系全体としてマクロに見た変化を示さなくなる。このとき、上記の三つの示量変数に加え、それらの関数として表される別の示量変数エントロピー$S=S(U,V,N)$が定義できる。$V$と$N$を固定したまま、エネルギーの配分をわずかに変化させると、エントロピー変化は \begin{align} \delta S = \left( \frac{\pd S_1}{\pd U_1} \right)_{V,N} \delta U_1 + \left( \frac{\pd S_2}{\pd U_2} \right)_{V,N} \delta U_2 , \end{align} となる。マクロな変数の変化がないという仮定からこの右辺は$0$となる。 そして、エネルギー保存則$\delta U_1+ \delta U_2=0$より \begin{align} \label{dS U} \delta S = \left[ \left( \frac{\pd S_1}{\pd U_1} \right)_{V,N} - \left( \frac{\pd S_2}{\pd U_2} \right)_{V,N} \right] \delta U_1 = 0, \end{align} が任意の$\delta U_1$で成り立つから、このときの系の状態を表す関係式として \begin{align} \left( \frac{\pd S_1}{\pd U_1} \right)_{V,N} = \left( \frac{\pd S_2}{\pd U_2} \right)_{V,N}, \end{align} が得られる。ここで、熱力学的温度として \begin{align} \frac{1}{T} \equiv \left( \frac{\pd S}{\pd U} \right)_{V,N}, \end{align} を定義することで、熱平衡の条件
\begin{align} T_1=T_2, \end{align}
が得られる。

 続いて、全体積$V=V_1+V_2$は固定しつつ、部分系の間の体積配分を変化させられるようにする。するとエントロピー変化は \begin{align} \delta S = \left( \frac{\pd S_1}{\pd V_1} \right)_{U,N} \delta V_1 + \left( \frac{\pd S_2}{\pd V_2} \right)_{U,N} \delta V_2 +\left( \frac{\pd S_1}{\pd U_1} \right)_{V,N} \delta U_1 + \left( \frac{\pd S_2}{\pd U_2} \right)_{V,N} \delta U_2 = 0, \end{align} であり、熱平衡を前提とすれば、上と同様の議論から \begin{align} \delta S = \left[ \left( \frac{\pd S_1}{\pd V_1} \right)_{U,N} - \left( \frac{\pd S_2}{\pd V_2} \right)_{U,N} \right] \delta V_1 = 0, \end{align} を満たすことになる。これも任意の$\delta V_1$で成り立つから \begin{align} \left( \frac{\pd S_1}{\pd V_1} \right)_{U,N} = \left( \frac{\pd S_2}{\pd V_2} \right)_{U,N}, \end{align} が得られ、圧力$p$を \begin{align} p \equiv T\left( \frac{\pd S}{\pd V} \right)_{U,N}, \end{align} で定義すれば、力学的平衡の条件
\begin{align} p_1= p_2, \end{align}
が得られる。同様に$N=N_1+N_2$の配分の変化を許容した場合、化学平衡の式
\begin{align} \mu_{c1}=\mu_{c2}, \end{align}
が得られる。ここで \begin{align} \mu_c \equiv -T\left( \frac{\pd S}{\pd N} \right)_{U,V}, \end{align} は化学ポテンシャルと呼ばれる。一般に、系が熱平衡、力学的平衡、および化学平衡の条件を満たすとき、熱力学的平衡状態にあると言われる。

反対に、系が熱力学的平衡状態から外れた状態にあり、温度や圧力の空間的な差(勾配)が存在するとき、そこにエネルギーや物質の輸送が生じる。一般化した表現として、何らかの示量変数$x_i$を用いて \begin{align} \label{thermo force} X^i \equiv -\left( \frac{\pd S}{\pd x_i} \right), \end{align} と表したとき、$X^i$は$x_i$に対応する熱力学的力あるいは駆動力などと呼ばれる。例えば系同士が熱平衡状態にない場合は、(\ref{dS U})より、温度の勾配$(1/T_2-1/T_1)$が熱力学的力として生じることがわかる。

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