世界を変えた17の方程式(後半)

世界を変えた17の方程式(後半)


■概要

数学者で一般向けのサイエンスライターであるイアン・スチュアート (Ian Stewart)が著書『世界を変えた17の方程式』で取り上げている17の方程式について解説する記事の後半である。



改めて、ここで扱うのは、その17の方程式に関する個人的な知識に基づく説明であり、著書の内容とは何ら関係ないことには注意してもらいたい。方程式にまつわる小話や歴史的背景などは、スチュアートの著書を参照してもらいたい。後半のこの記事では、10から17までを取り上げる。前半については『世界を変えた17の方程式(前半)』を参照。

■説明

10. ナビエ-ストークス方程式(Navier–Stokes equation)

ナビエ-ストークス方程式$$\rho\left(\frac{\partial \bm{v}}{\partial t}+\bm{v} \cdot \nabla \bm{v}\right)=-\nabla p+\nabla \cdot \bm{T}+\bm{f}$$は、粘性流体の運動を記述する方程式である。$\rho$が流体の密度で、左辺の括弧内は流体の速度の時間変化率を表している。そのうち一項目は位置を固定して見たときの流体の速度の時間変化で、二項目は速度$\bm{v}$で運動する流体の流れに乗って観測したときの時間変化である。右辺は、$\nabla p$が圧力の勾配、$\nabla \cdot\bm{T}$が粘性に関する項、そして$\bm{f}$が外力に対応する。つまりこの方程式は、これら右辺の項の影響によって流体の流れが時間的にどのように変化するかを表している。三次元でこの方程式に一般解が存在すること、あるいは存在しないことを証明するのはミレニアム懸賞問題の一つとなっており、解決したものには100万ドルが与えられる。

11. マクスウェル方程式(Maxwell's equations)

マクスウェル方程式\begin{equation} \notag \begin{split} \nabla \cdot \bm{E} &=\frac{\rho}{\epsilon_{0}} \\ \nabla \cdot \bm{B} &=0 \\ \nabla \times \bm{E} &=-\frac{\partial \bm{B}}{\partial t} \\ \nabla \times \bm{B} &=\mu_{0} \bm{j}+\frac{1}{c^{2}} \frac{\partial \bm{E}}{\partial t} \end{split} \end{equation}は、電磁気学の基本方程式である。この式の意味はコチラの記事を参照してほしい。具体的な導出は『Maxwellの方程式の導出』を参照のこと。
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12. 熱力学第二法則(Second law of thermodynamics)

$$dS \geq 0$$は、熱力学的エントロピー$S$という量が、孤立系(外部とのエネルギーや物質のやり取りがない系)において、減少することはない(変化量$dS$が$0$より小さくならない)ことを示している。

この法則の日常的な経験に対応する一つの表現は、「熱が温度の低い方の物体から高い方の物体に自発的に移ることはない」となる。

熱力学第二法則の由来は、マクロな(目に見える日常的な)スケールを扱う熱力学ではなく、マクロな系を構成する個々の粒子の振る舞いを調べる統計力学の観点から考える必要があるが、統計力学においても、エントロピーや、ミクロなスケールの法則とマクロなスケールの法則の橋渡し、あるいはそれを表現する量や概念(確率やアンサンブルなど)の解釈を巡って未だに議論がある。現代のおける一つの有力な解釈は『時間の矢の起源:典型性に基づく説明』を参照。

13. 相対性理論(Relativity)

$$E=mc^2$$よく知られたこの式は、$c$を光速として、エネルギー$E$と質量$m$をつなぐ式である。この式だけを見せられて、エネルギー$E$が何を意味するのかについては二通りの見方ができる。

まず、外力がかかっていない場合の相対論的粒子のエネルギーは、物体の速度の大きさを$v$として \begin{align} \label{Erel} E=\frac{mc^2}{\sqrt{1-v^2/c^2}} \end{align} で与えられる。これを$v/c$で展開すると$$E=m c^2 +\frac{1}{2}mv^2 + ...$$が得られる。右辺二項目は非相対論的な運動エネルギーであるが、物体が静止している場合は$v=0$なので、$E=m c^2$となり、運動していなくとも、物体の持つ質量そのものがエネルギーと等価であるということを示す式となる。

一方、(\ref{Erel})において、$$m_{rel}\equiv\frac{m}{\sqrt{1-v^2/c^2}}$$を相対論的質量と定義し、速度によらず、$E=m_{rel}c^2$の形で表現するものもいる。しかし、相対論的質量という概念は物理的に不適切であるともみなされていることや、(\ref{Erel})が含意するうちで最も重要なことの一つがエネルギーと質量と等価性であることからも、アイコンとして$E=mc^2$を持ち出す際の$m$は静止質量とするのが適切だろうと思われる。

導出はコチラから。

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14. シュレーディンガー方程式(Schrödinger's equation)

$$i \hbar \frac{\partial}{\partial t} \psi=\hat{H} \psi$$は、ミクロな世界の系の(何らかの意味での)状態を表す波動関数$\psi$の時間発展に関する式である。$i$は二乗すると$-1$になる数、虚数単位で、$\hbar$はプランク定数$h$を$2\pi$で割った、量子力学を特徴づける定数である。右辺の$\hat{H}$はハミルトニアン演算子と呼ばれ、これを波動関数に演算することは、系のエネルギーを取り出す操作に対応する。

導出はコチラから。

15. 情報理論(Information theory)

$$H=-\sum p(x) \log p(x)$$は、シャノンの情報エントロピーと呼ばれる不確実性の尺度を表す量である。$p(x)$は、ある確率変数(確率的に値が決まる変数)が$x$という値を取る確率で、その不確実性は$\log{p(x)}$で与えられる。確率$p(x)$で重み付けてこれの期待値を取ったのが上の式である。そのため、平均情報量とも呼ばれる。

エントロピーという名前が付けられているがゆえに、熱力学的エントロピーとの関係を巡って、様々な議論と、そして混同、困惑が存在しているため、概念的な区別には注意しないといけない。

熱力学第二法則の部分でも触れた統計力学的観点から見た熱力学第二法則を巡る議論の中で、この情報エントロピーを(定数などの差を除いて)熱力学的エントロピーの定義としてそのまま受け入れようという一つのラディカルな立場さえ存在しているが、物理法則が人間の主観的信念に依存するというような馬鹿げた結論にもつながるため、当然批判も多い。

導出については『Shannonの情報エントロピー』を参照してほしい。

16. カオス理論(Chaos theory)

$$x_{t+1}=k x_{t}\left(1-x_{t}\right)$$は、ロジスティック写像と呼ばれる。$t$は離散的(とびとび)な時間ステップを表しており、ある量、例えば生物の個体数を$x$とすると、$x_t$は$t$ステップ目の$x$の値を示している。$k$は定数。つまり、1ステップ後の$x_{t+1}$は、ひとつ前のステップにおける値$x_t$によって決まることを示しているのだが、この単純な方程式が、定数$k$の取り方によって非常に複雑で、実質的に予測不可能な振る舞い、すなわちカオスな振る舞いを見せる。

17. ブラック–ショールズ方程式(Black–Scholes equation)

$$\frac{1}{2} \sigma^{2} S^{2} \frac{\partial^{2} V}{\partial S^{2}}+r S \frac{\partial V}{\partial S}+\frac{\partial V}{\partial t}-r V=0$$は、経済学における方程式、だそうであるが、申し訳ない、この方程式については知らないので、解説はできない(調べようとしたが、馴染みのない経済用語に嫌になった)。



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