ポケモンミームの数式

ポケモンミームの数式


ポケモンミームの数式を解説する。このミームの出典は不明であるが、生化学系よりの人が作ったのではないかと想像している。

ピカチュウ(電磁気学)

これはMaxwell方程式と呼ばれる電磁気学の基本方程式のセットである。まず、方程式の理解の前に、いくつか必要な概念を説明しよう。

力線:例えば電荷を持つ物体同士は電場を介して互いに力を及ぼしあう。このときの電場の作用について考えるとき、電気力線という仮想的な線を導入し、その向きと密度で場の作用する方向と強さを表すということが一般に行われる。この力線という概念は、電場に限らず空間の各点にその強さと方向が与えられるベクトル場と呼ばれる種類の場一般について用いられる。
発散:ある体積から出たり入ったりする正味の流れを発散という。発散のある場について考えるときは、力線が泉のように湧き出ているようなイメージを持つといい。一方、例え力線が湧き出していても、巡り巡ってすべて出たところに戻っていくような力線であれば、発散はゼロとなる。
回転:例えば車のハンドルの左右を握り、左手では時計回りに、右手では反時計回りハンドルを回そうとするとどうなるか?両手の力が釣り合えばハンドルは周らないし、左手の力の方が強ければ時計回りに回る。ハンドルを水面に浮かべられた歯車に、手の力を水の流れに置き換えたとき、この水の流れはどれだけ歯車を勢いよく回せるか、というのがここでいう回転のイメージである。流れがどれだけ強くても、両手で逆向きにハンドルを回そうとする例と同じように正味の力が打ち消しあってしまえば回転はゼロになる。数式を用いた説明は『ベクトル場の回転とSTOKESの定理』を参照。

これらの概念を用いて上から順に式の意味を説明すると
  • $\nabla\cdot \bm{E}$は、電場$\bm{E}$の発散を表していて、電場の発散は、その体積の中にある電荷の密度$\rho$に比例するということを意味している。$\varepsilon_0$は比例定数。
  • $\nabla\times \bm{E}$は電場の回転を表しているが、この式は磁場$\bm{B}$が時間変化すると、電場$\bm{E}$の回転が生じることを意味している。
  • この式が意味するのは、磁力線の発散は常にゼロということだ。N極から出た磁力線はS極に向かうのだが、これが常に成り立つということは、N極やS極一方のみの極を持つ磁石は存在しないということを意味する。
  • 最後は、電流$\bm{j}$が流れたり、電場$\bm{E}$が変化したりすると磁場の回転が生じるということを意味する式である。$\mu_0$もここでは比例定数とだけ理解すればいい。

数式を用いた説明は『Maxwell方程式の導出』を参照。
マクスウェルの方程式マグカップ


ヒトカゲ(熱力学)

これらは熱力学で用いられる数式だ。熱とは今でこそ乱雑な運動をする分子のエネルギーだとわかっているが、熱力学は原子の存在が確証される前にその存在を仮定せずに構築された。ここでも式の意味の前に、まずいくつかの必要な概念を先に説明する。

ミクロとマクロ:一般には熱力学の文脈では、熱力学的な系を構成する個々の分子のスケールをミクロなスケール、私たちの目に見えるスケールをマクロなスケールといってスケールの区別をする。必ずしもこの区別が正確ではない場合があるが、ここではその程度の認識で十分である。
内部エネルギー$U$:容器に入った液体を考える。その液体は全体としてエネルギーを持っているけど、その液体が建物の一階の実験室にあるか、同じ建物の十階の実験室にあるかで持っている位置エネルギーが異なる。それを隣の部屋に運ぶときは全体としての運動エネルギーも得る。でもそんなことは気にしないで、容器の中の液体を構成するものの持つエネルギーだけを考えたいということが多い。それを内部エネルギーという。
熱と仕事:どちらもエネルギーの変化だが、マクロな変数の変化によるものを仕事、ミクロな状態の変化によるものを熱と言って区別する。
自由エネルギー:エネルギーには仕事して取り出せる部分とそうでない部分があり、取り出せる部分を自由エネルギーという。

では上から順に式の意味を説明すると
  • 内部エネルギー$U$の変化は、受け取った熱と仕事の和である。つまりこれは、エネルギーの保存則を表していて、熱力学第一法則と呼ばれる。$d$も$\delta$も微小な量を表してるのだが、前者は変化、後者は変化ではなく、やり取りされる微小な量を表していると解釈すればいい。
  • Gibbsの自由エネルギー$G$の変化は、エンタルピー$H$から温度$T$とエントロピー$S$の積を差し引いたものである、ということを意味する。エンタルピーは圧力一定の時は系のエネルギーと同じものと思っていい。$TS$は取り出せないエネルギーの部分を表すもので、要するにこの式は、加えたエネルギーから、使えないエネルギーを差し引いたものが得られる自由エネルギーの変化ですよ、ということを表している。
  • 系に変化を及ぼしたとき、周りに影響を及ぼさずに元に戻せる過程を可逆過程(reversible process)というが、そのとき出入りする熱$\delta Q_{rev}$を温度$T$で割った量がエントロピーの変化に等しくなる、それが、孤立系では減少することはないということを表している。これは熱力学第二法則と呼ばれる。


フシギダネ(生化学)

これらは生化学の式と思われる。
  • 一つ目の式は光合成の式で、二酸化炭素と水と光から、グルコースが作られるという反応式。
  • 二つ目の式はは黄金比の式で、植物の葉が黄金比に従って配列されることで、光合成の効率が最大限化されている、ということから取り上げられているのだと思われる。
  • 正直三つ目の式のことは知らなかったのだが、調べたらMichaelis–Menten方程式という酵素反応速度に関する式らしい。
余り知識のない分野なので、細かい説明はできない。


ゼニガメ(流体力学)

これらは流体力学で用いられる数式である。流体は固い物体と異なり、その形が容易に変化するため、そのような効果も考慮に入れないといけない。圧縮性(密度変化)や粘性(流れの抵抗)の有無によって、取り扱いの困難さが大きく変わってくる。
  • 一つ目の式は流体の運動方程式。$P$は圧力、$\rho$は密度、$V$は流れの速さ$g$は重力加速度、$z$は高さ、$f(t)$は外力である。例えば密度$\rho$が一定で、流れも定常(速さ$V$の時間変化がない)、そして外力$f(t)$がない場合は \begin{align} p+\frac{\rho V^2}{2} +\rho gz = {\rm 定数} \end{align} となる。この力学的エネルギー保存則に対応する式をBernoulliの定理という。
  • 二つ目は、物体が$\bm{n}$という方を向いた面積$S$を通して受ける力の式。上方向の座標を$z$とし、重力のかかる流体中の物体に加わる力を考えると、Archimedesの原理 \begin{align} \bm{F}=m g \bm{e}_{z} \end{align} となる。ここで$m$は物体が押しのけた流体の質量で、$\bm{e}_{z}$は上方向の向きを表すベクトル。
  • 三つ目はNavier–Stokes方程式といい、粘性流体の運動を記述する方程式である。$\mu$が流体の粘性。$D/Dt$はLagrange微分といって、決まった領域での時間変化ではなくて、運動する流体の流れに乗って観測したときの時間変化を表している。圧力の勾配$\nabla P$や、外力$\rho g$、そして粘性項$\mu\nabla^2 V$にしたがって、流体の速度がどのように変化するかを表している。三次元でこの方程式に一般解が存在すること、あるいは存在しないことを証明するのはミレニアム懸賞問題の一つとなっており、解決したものには100万ドルが与えられる。


■関連

世界を変えた17の方程式


コメント

人気の投稿